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「オルフェウスの窓」ファンサイト「Die Blaetter」管理人ぼーだらのブログです。いろいろ語っております。ツッコミお願い致します!
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「愚痴蒙昧の民として 我を哭かしめよ あまりに惨く 死にしわが子ぞ」
釈迢空の歌です。民俗学者折口信夫としての方が有名かな。
この人の歌は、ある種の直截さというか、言葉がひとつひとつ息遣いとともにつながっている、むしろ呟きがそのまま歌になったような雰囲気が魅力です。短歌としては珍しく句読点を用いるあたりもその印象を強くします。「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」なども好きな歌です。
一方で、こちらの歌は直截というのを通り越して、床を打つ拳の音まで聞こえてきそうな激しさと悲しさに溢れています。
「わが子」は養子の春海。1945年3月に38歳で硫黄島で戦死しました。最初は学問の弟子であり、同性愛の恋人でもあった(そーいや釈迢空の同性愛は「葛の花」を習った高校時代に授業で聞いたなぁ。思えばLGBTに寛容な教室だった)このひとと、歌人は18年を共に暮らしていました。学問の後継者と目した愛弟子であり、共棲みの恋人。一心同体、というに近い濃密な人間関係。「あまりに惨く死にし」という表現はまるで、彼の無残な最期を自分の肉体で受け止めたかのようです。
文字通り生身の半身を切り裂かれるような痛み、しかし民俗学者としての折口は日本を研究対象にし、誰よりもその襞を知る人物でもあったのです。「愚痴蒙昧」、わしは何も知らんかった、大馬鹿もんや(いえ、折口も大阪出身なんですよ)。男泣きの底は彼の学問人生の深さでもあり、愚痴蒙昧という言葉には自分の人生を否定しているような深々、冷え冷えとした表情があります。
「愚痴蒙昧」。「無知蒙昧」と同じような意味なのですが、口に出してみると「無知」のぼんやりした柔らかさにはない、大声で愚かな言葉をまき散らしているような尖った騒がしい響きがあります。このセンスの鋭さ、適語を選ぶ語彙の豊富さは、プロ歌人の面目訳所ではあります。
ここまで濃い人間関係はそうあるものではないでしょうし、学者、インテリとしての感情も誰にでも分かるものではないかもしれません。それでも、この絶唱というより絶叫にも似た歌は、ひとつの戦争の肖像として、血の出るような嘆きの声を読むたびに響かせてくるのです。

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